肺扁平上皮がんの新たな予後因子を発見

 

肺扁平上皮がんの新たな予後因子を発見

発表日時 365体育网址_365体育投注-手机版官网6年7月10日(水) 11時00分~11時30分
場所 生涯研修センター研修室
発表者 本学医学部 生化学講座  准教授 西辻 和親

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発表内容

発表のポイント
  • がん細胞内でp53凝集体の沈着が観察される肺扁平上皮がんの症例は特に予後不良である。
  • p53凝集体が沈着している肺扁平上皮がんの症例をルーチンで行われるp53の免疫染色の染色パターンにより抽出できた。
  • p53凝集体が細胞内に存在する肺扁平上皮がん細胞株では、プラチナ製剤に対する感受性が下がっているが、p53凝集体を除去することにより感受性を回復させることができた。
  • 肺扁平上皮がんにおいて、がん細胞内のp53凝集体を標的にした予後予測や抗がん剤耐性克服のストラテジーの開発が期待されます。
1.背景

 肺扁平上皮がんの発生は喫煙と関連することが知られています。近年では喫煙率の減少に伴い減少傾向にありますが、それでも肺がんの25-30%を占めています。がん抑制遺伝子として知られるp53遺伝子はヒトのがんで最も多く変異が認められる遺伝子であり、p53の異常はさまざまながんの予後に影響を及ぼすと考えられる一方で、肺がん、特に肺扁平上皮がんの予後とp53遺伝子の異常についてはこれまで一致した見解は得られていませんでした。近年、がん細胞において変異型p53タンパク質が凝集体を形成することが分かってきました。このような変異型p53凝集体は、アルツハイマー病などの神経変性疾患で沈着する他のアミロイドと共通する性質を示し、国際アミロイドーシス学会によるアミロイド命名法(2020)でもアミロイド形成タンパク質の一つとして触れられています。我々はこのような変異型p53タンパク質ががん組織に沈着することに着目し、研究を行ってきました。本研究では、肺扁平上皮がんにおいてp53凝集体陽性となる症例の探索と予後解析を行いました。また、肺扁平上皮がん由来細胞株を用いた実験も行いました。

2.研究成果

 ある種のがんでは、日常の病理診断業務で行うようなp53の免疫組織化学的検査により、免疫染色パターンに基づいてp53遺伝子の異常を検出することができます。野生型のp53タンパク質は細胞内で比較的速やかに分解されるため、通常はほとんど染色されませんが、p53遺伝子異常による変異型p53タンパク質は陽性像として観察されます。また、p53が全く検出されない症例もあり、そのような症例もp53遺伝子異常の症例に分類されます。一方、肺扁平上皮がんではp53免疫染色によるp53遺伝子異常の検出精度はそれほど高くはなく、当該がんのp53免疫染色による分類は現在ではあまり注目されていませんでした。我々の解析では肺扁平上皮がんの症例もp53免疫染色パターンにより野生型p53、p53陰性、p53核強陽性、p53細胞質/核陽性の4つに分類できましたが、興味深いことに、p53細胞質/核陽性の症例は他の染色パターンのものと比べて全生存率、無病生存率ともに有意に不良であることが分かりました。さらに、これらのp53細胞質/核陽性症例の細胞質内で見られるp53は凝集体を形成していました。これらの結果から、p53凝集体が肺扁平上皮がんの予後に大きく影響すること、また病理診断で日常的に行われているp53の免疫組織化学的検査によりp53凝集体陽性の症例が抽出できることが分かりました。

 肺扁平上皮がんでは、手術に耐えることが難しい高齢者に対し、抗がん剤としてプラチナ製剤を用いることがあります。プラチナ製剤の効果の発揮にはp53の機能が必要であるため、p53凝集体がプラチナ製剤による細胞死の誘導に影響するのかどうか、検討を行いました。p53凝集体が細胞質内に存在するような肺扁平上皮がん由来細胞株ではシスプラチンによる細胞死の誘導があまり起こりませんでしたが、p53の凝集を抑制するような条件下ではシスプラチンにより細胞死が誘導できるようになることが分かりました。

 今回の成果は、熊本大学大学院生命科学研究部細胞病理学講座?菰原義弘教授、藤原章雄准教授、同呼吸器内科学分野?坂上拓郎教授、御任玲美医員、同呼吸器外科学分野?鈴木実教授、松原恵理助教、和歌山県立医科大学医学部生化学講座?池﨑みどり助教、フランス国立科学研究センター リール大学?内村健治研究ディレクターらとの共同研究の成果です。

3.用語説明

p53:がん抑制タンパク質。様々なストレスに対する細胞応答の起点になることにより、がんの発生と進展を抑制する。

プラチナ製剤:細胞傷害性の抗がん剤。プラチナがDNAの塩基と共有結合するとDNAの複製や転写が阻害される。がん細胞のアポトーシスが誘導され、プラチナ製剤の抗腫瘍効果が発揮される。

4.研究サポート

本研究は科研費 基盤研究B(課題番号20H03459)、基盤研究C(課題番号20K09605、22K09623)、国際共同研究強化A(課題番号20KK0371)、2019年度及び2020年度和歌山県立医科大学特定研究助成、公益財団法人 鈴木謙三記念医科学応用研究財団?二国間国際共同研究助成、公益財団法人 持田記念医学薬学振興財団?研究助成金、公益財団法人 高松宮妃癌研究基金?研究助成金(課題番号23-255025)による支援を受けて実施されました。

5.論文情報

論文名:Impacts of cytoplasmic p53 aggregates on the prognosis and the transcriptome in lung squamous cell carcinoma

著 者:Kazuchika Nishitsuji, Remi Mito, Midori Ikezaki, Hiromu Yano, Yukio Fujiwara, Eri Matsubara, Taro Nishikawa, Yoshito Ihara, Kenji Uchimura, Naoyuki Iwahashi, Takuro Sakagami, Makoto Suzuki, Yoshihiro Komohara

掲載誌:Cancer Science (日本癌学会機関誌、2024年6月21日付けの電子版で公開)

DOI:10.1111/cas.16252

URL:https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/cas.16252

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