外生殖器の性が揺らぐ仕組みを発見

発表日時 365体育网址_365体育投注-手机版官网3年6月28日(月)11:30~12:00
場所

和歌山県立医科大学 生涯研修センター研修室(図書館棟 3階)

発表者

遺伝子制御学研究部  准教授 鈴木 堅太郎
動物実験施設     准教授 磯野 協一

発表内容

概要

外生殖器は形態的性を決める重要な器官である。男性ホルモンであるアンドロゲン曝露による女性外生殖器の男性化が臨床的にも知られているが性が変わる仕組みは、わかっていなかった。今回マウス外生殖器形成をモデルとした研究から、本来オスで高発現する性差遺伝子*1の発現制御領域を調べると、メスにおいてもアンドロゲン曝露に依存して速やかに男性化シグナルが活性化されるゲノム環境が担保されていることがわかった。さらに性差遺伝子の1つ'Mafb'の外生殖器エンハンサー領域の欠損マウスを作成し、性差遺伝子の発現低下の程度に伴いオスの外生殖器がメス型に分化することを見出した。
本研究からメスの外生殖器は、メス型/オス型のどちらの性にもなりうる不安定な発生時期が存在すること、さらに外生殖器は、アンドロゲンの曝露量に依存して性が揺らぐバイポテンシャルな器官であることをゲノムレベルで明らかにした。

背景

図1外生殖器は、男女間で顕著に異なる性差器官であるが、その発生は雌雄共通の原基から始まる(図1)。性は、遺伝的要因および性ホルモンの作用により形成され、特にアンドロゲンの曝露が性差形成(男性化)に不可欠であるとされている。アンドロゲンがその特異的レセプターであるアンドロゲンレセプター(AR)に結合すると、ARは転写因子として男性化に必要な性差遺伝子の発現を誘導し、外生殖器の男性化スイッチをONにする。外生殖器は、アンドロゲン依存性の性差器官であるが故に、時に女性外生殖器の男性化、男性における女性化が見られる不安定な器官とも言われ、また個体差が大きな器官でもある。なぜ外生殖器の性は揺らぐのか、そして多様なのか、その説明は長い間謎とされてきた。

研究手法?成果

図2マウス外生殖器性差形成過程においてAR が結合している領域、転写が活性化されている領域の雌雄の違いを明らかにするためAR抗体、オープンクロマチン領域*2マーカーであるH3K4Me1およびH3K27acの抗体を用いて次世代シーケンサーによるChIP-seq解析*3を行った。性差遺伝子Mafbの外生殖器エンハンサー領域のノックアウトマウスをCRISPR/Cas9システムにより作成し、外生殖器の雄性化における同エンハンサー領域の重要性を検証した。
雌雄間で発現が異なる性差遺伝子の発現制御領域をエピゲノムレベルでみると、実はオスもメスも同じ状態、すなわち、アンドロゲンに晒されるといつでも雄性化スイッチがONになる環境が形成されており、このどちらの性にもなりうる不安定なゲノム環境は、ユビキタスに発現する転写因子'SP1'により形成されることがわかった(図2)。Mafb外生殖器エンハンサーノックアウトマウスは、オス型の外生殖器を形成できずメス化が起こった(図3)。

波及効果

図3これまで性は、男性か女性の二項対立的に捉えらてきたが、本研究はアンドロゲンの曝露量、さらにその下流で機能する性差遺伝子の発現量に依存して外生殖器の性が定義できる可能性を科学的に示し、性の多様性、性の揺らぎを理解する上で大きな一歩となる成果である。また本研究から、アンドロゲン依存性の新規性差遺伝子群の同定に成功した。興味深いことに性差遺伝子は、外生殖器に特異的な遺伝子ではなく多くの器官形成および恒常性維持に関与する遺伝子であった。性差は、外生殖器に限った現象ではない。今後のさらなる発現制御機構及び性差遺伝子の機能解析は、罹患率に性差を示すがんや生活習慣病などの病態発症機序の理解につながることが期待できる。

本研究成果は2021年6月8日、米国科学アカデミー紀要「Proc Natl Acad Sci U S A.」に掲載されました。本研究は文部科学省科学研究費補助金、文部科学省科学研究費助成事業新学術領域研究(性スペクトラム)、熊本大学発生医学の共同研究拠点などの支援を受けて、熊本大学発生医学研究所、熊本大学生命資源研究?支援センター、国立成育医療研究センター、九州大学生体防御医学研究所、シンシナティ小児病院医療センター、東京理科大学先進工学部、本大学動物実験施設との共同で実施されました。

用語解説

*1 性差遺伝子:雌雄間で発現量が異なる遺伝子.
*2オープンクロマチン領域:転写が活性化されているゲノムの状態.ヒストン修飾(H3K4Me1、H3K27acなど)でマークすることができる.
*3ChIP-seq解析: 高速シーケンサー(NGS)を利用して、タンパク質-DNA 相互作用領域を検出する技術. 修飾ヒストンや転写因子に対する抗体を用いて、ゲノム上の転写因子結合部位、ヒストン修飾領域を網羅的に検出することができる.

掲載論文

Kajioka D*, Suzuki K*,#, Matsushita S, Hino S, Sato T, Takada S, Isono K, Takeo T, Kajimoto M, Nakagata N, Nakao M, Suyama M, DeFalco T, Miyagawa S, Yamada G#.
(*equal contribution, #corresponding author)
Sexual fate of murine external genitalia development: Conserved transcriptional competency for male-biased genes in both sexes.
Proc Natl Acad Sci U S A. 118(23), 2021. DOI: 10.1073/pnas.2024067118.?

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