胃のペースメーカー活動と運動性を人で同時測定に初めて成功

日程 365体育网址_365体育投注-手机版官网2年11月26日(木)10:00~10:30
場所 和歌山県立医科大学 生涯研修センター研修室(図書館棟 3階)
発表者 生理学第1講座  教授 金桶吉起
         助教 堂西倫弘

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    概要

    消化管の運動は、自律神経のみならず消化管神経叢やホルモンなどによって複雑に制御されています。ストレスや脳の病気で消化管の機能障害が起こることはよく知られていますが、近年消化管の機能が逆に脳や全身の病気に関係していることがわかってきました。例えばパーキンソン病のような脳の病気と思われていたものが、実は消化管神経から始まる可能性が指摘されています。よって消化管の機能をよく調べることで、脳や全身の病気の早期発見や治療、症状改善につながる知見が得られる可能性があります。また、機能性胃腸症という病気は胃カメラなどでは異常がないにも関わらず、吐き気や膨満感などの症状をもたらす病気で、10-20%の成人がこれに当てはまると言われています。その原因は様々ですが、非侵襲的に消化管の運動性や神経活動を調べることができる検査方法は乏しく、研究も進んでいません。
     今回我々は、高速MRIと胃電図によって胃のペースメーカー電気活動とそれに伴う運動性を体の外から安全に同時記録することに成功しました。特に胃のペースメーカー活動に伴う運動性を正確にとらえたのは世界初です。この方法によって機能性胃腸症の病態解明や脳の病気の早期発見、免疫疾患など全身疾患の症状緩和の研究につながることが期待されます。

    1.背景

     胃の運動はその上部にあるペースメーカーの電気活動によって制御されており、上部から下部(幽門)に向かって1分間に約3回のゆっくりとした収縮を起こしている。この電気活動は胃電図という手法で、腹部に貼り付けた電極で記録することができるが、胃のみならず小腸や大腸の電気活動も記録する可能性があり、また体動の影響も受けるため、臨床応用はあまりなされていない。一方、消化管運動の評価に高速M R Iによる動画撮像が応用され始めているが、ペースメーカー活動に伴う運動性について評価する方法はこれまでに報告はなかった。これまでの高速M R Iによる胃の運動評価は、上部から下部まで大きくほぼ全体を撮像できるように冠状断撮像が行われることが多かった。しかし、この方法では呼吸(1分間に20回程度)による胃断面の変化が大きく1分間に約3回の胃の運動を評価することは不可能である。そこで我々は、胃の下部、前庭付近の矢状断撮像を行うことで、その断面は呼吸で上下に移動しても断面の形は影響を受けにくいと考えた。そしてこの方法の正しさを胃電図同時記録によって検証した。

    2.研究手法?成果

     24名の20代男女にて、食後4時間の胃の断面の面積と胃電図を測定した。高速M R I撮像は、1秒に2スライス撮像で十分間行った。胃電図は1kHzのサンプリングで腹部2箇所に設置した電極から双極誘導で同時記録した。胃断面の面積(GA)変化は、コンピューターモニター上で輪郭をなぞり測定した。
     GA変化、胃電図ともに0.05Hz前後の頂点周波数を観測し、それらはほぼ一致した。振幅の変化もほぼ一致したが、時に大きく異なる現象を確認した。この結果は、胃の前庭部の矢状断撮像によってペースメーカー活動に伴う運動性を正確に評価できることを示すものである。また振幅の変化に解離が見られたことは特に注目すべき知見で、ペースメーカーの電気活動が常に電位と比例した胃の平滑筋収縮を起こすわけではないことを示している。

    3.波及効果

     今回新たに開発した手法は、非侵襲的に胃のペースメーカー電気活動とそれに伴う運動性を同時に測定し評価することができる。健常成人の胃電図測定では通常一分間に3回のサイン状の振幅変化が記録されるが、それ以外の変化がおきた時には、胃の電気活動に由来するのか、あるいは小腸や大腸の電気活動、体動によるアーティファクトかを判別することはできなかった。しかし、同時に胃断面の変化を測定することによって平滑筋収縮の程度と比較することによってそれが可能となる。また、胃の電気活動と平滑筋収縮との連動状態の評価も可能となり、これによって胃の運動障害の原因がペースメーカー活動そのものにあるのか、あるいはその伝導障害か、さらには電気活動と平滑筋収縮との乖離にあるのかも詳細に検討できるため、機能性胃腸症の病態解明、脳機能や全身疾患との関連を研究するための不可欠な検査方法となると考えられる。

    スライド内容

    A:Wavelet 解析による胃断面(G A)と胃電図(E G G)の周波数分布。どちらも0.05Hzのペースメーカー電気活動に一致する周波数に高い振幅を認める。
    B:0.03-0.06Hzの振幅の変化。周波数はほぼ一致しているが、振幅の変化に時々不一致を認める。青:異断面、赤:胃電図。
    C:相互相関関数による相関係数。この例では、遅れ時間0で、最も相関係数が高い。

    掲載誌
    Yoshiki Kaneoke, Tomohiro Donishi, Masaki Terada
    Detection of gastric slow oscillatory contraction using parasagittal cine MR images: Comparison with simultaneously measured electrogastrogram. Magnetic Resonance Imaging, 2020 Oct 31;75:149-155. doi: 10.1016/j.mri.2020.10.012.

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